現在の日本の常識にとらわれていては明日はありません。 これは多くの日本人に共通した感覚だと思われます。 もちろん日本ならではの良い点も多くあるのですが, 現実問題としては日本の常識は世界の非常識である事も多いのです。 そして健康保険も同様に多くの問題を抱えています。 私たちはその問題について十分理解した上で, そのご利用をお薦めします。
WHO(世界保健機構)によって日本の健康保険制度は高い評価を得ています。 例えば非常に高い平均寿命がその根拠だったりします。 これは立派な事でしょう。 しかし,それは医療の恩恵というよりも日本人の生活環境や食生活の習慣に根ざしていると考えられます。 一方で,臨床に携わる各国の歯科医師が日本の健康保険制度を褒めることはありません。 これはどういう意味でしょうか?
歯科では歯が痛くなったり,不幸にして喪失してしまったとしても, 誰でも容易に治療を受けることが出来るのが日本社会です。 しかし,その万人に優しい歯科医療の技術水準と品質的な内容は, 年齢の増加とともに取り外しの義歯のお世話になる方がどんどん増えていくような種類のものです。 多くの歯科医療機関では詳しい説明もなく切削する歯の本数を増やしていきます。 どうすれば歯を長持ちさせられるかについてプロの管理を提供してくれる保険医療機関はごく少数です。 その結果,日本人の口腔内環境は先進諸国と比較して,お世辞にも誉められたモノでは無くなっているのが現実です。 具体的には中年期に銀歯だらけのお口の方が珍しいことではないということです。
大雑把にいって,日本の健康保険制度がサポートする歯科医療の技術水準では, 歯を維持するという長期予後が望めないのが平均的であるというのが現実です。 そして,歯を喪失してからはじめて義歯を製作してもらい問題を解消する事は健康保険制度はサポートしています。 しかし,歯が揃っている間に自前の歯で人生を過ごしていく方法を選択し, それを維持していくためのサポートはおよそ充実しているとは言えません。 どちらが豊かなのでしょうか? それを選択し,決定するのはあなた自身の価値観および人生観のあり方によります。
先進諸国の優れたレベルの歯科医療が提供出来る治療品質から見れば, みなさんの歯の健康の平均値は良好に管理されているとは言い難いという現実があります。 残念ながらこれは事実です。私も含めてみなさんは日本の健康保険に加入しているはずです。 多少掛け金の金額にバラツキはありますが,このおかげで, 何時でも何処でも医療の提供が受けられるようになっています。 この国民皆保険制度の理念は素晴らしいものですし, この制度を戦後数十年に渡り維持してきた日本国政府に感謝すべき事なのでしょう。 しかし,この常識も,やはりというか実は世界的には異端なものなのです。
高度な医療,なかでも歯科医師がマンツーマンで患者さんの治療に当たらなければならないような治療行為 (実は,ほとんど全ての歯科治療はこれにあたります)は, 内容が高度になればなるほど,コストはそれに比例して上昇するのが普通です。 そしてこれはスケールメリット(大量生産)というものとは全く相反するものですから, 技術革新による大幅なコストダウンはまず見込めません。 常識的に考えて, そのようなコストを国民みんなの財産である公的保険で賄えるはずはありませんし, そんなことを実施している国はないのです。
最低限の歯科医療が経済的理由により受診できない悲劇から逃れる術としての 健康保険制度の恩恵ははかり知れないものがあります。 しかし,生涯管理を続けて良好な環境を維持できるようなクォリティを歯科治療に求めるならば, 日本では 自由診療を選択する必要に迫られるケースが多くなるでしょう。 米国をはじめとする先進諸国では,高度な医療を受けるための民間レベルの健康保険を売る会社がありますが, その掛け金は想像されるより高額なものです。 一方,治療のオプションが非常に制限された公的保険も存在します。 日本の公的保険はそのメニューこそ多くのカバーをしているように見えますが, 一般的に提供されている治療品質は先進国レベルとはいいがたいものです。 しかし,人生設計にきちんと組み込んで管理して行けば, 生涯トータルでの収支は欧米でも民間保険のない日本でもほぼ同様なものになるはずなのです。
さらに日本の健康保険制度は『疾病』に対して給付されるというのが前提になっています。 つまり,『病気になり悪くならなければ利用できない』のです。 この理念によって生命が脅かされるような緊急事態に陥っても経済的な問題を避けて病院にかかることが出来るのです。 しかし,逆にこれは,病気を治した後の良好な状況を慎重に予防 ・管理を実施することによりそれを終生維持しようという現代歯科医学の前提とは相容れないものですし, 健康保険制度の理念にそぐわないものです。 そういったコストまで国民全員で負担するのならば, その時は日本の健康保険の掛け金は驚くほど高額なものになることは想像に難くありません。 将来に渡って日本の皆保険制度は命の危機を救ってくれる頼もしい存在であって欲しいと思います。 その一方で公的には財源の確保が不可能になるであろう 高度な歯科医療などについては私立の健康保険が登場する事を期待したいと思います。
そんな訳で,『どこの先進国に行っても恥ずかしくない水準の歯科医療』を望んだり, 充分に良好な状況に管理をしていけるような医療を受けたいと願うならば, そのコストについて十分な説明と相談をしてから治療を開始する必要があります。 そこで理解と了承を得ることにより私たちは初めて患者さんに対して持てる全ての技術を正しい形で提供できるのです。 自己責任の時代といわれて久しいですが, これからの時代は個人それぞれの選択により得られる未来の格差はさらに開いていくのが現実だと推定されます。 厳しい目をもって御自身がお受けになる医療を選択なさるべきでしょう。
一つの目安として10代後半から30代にかけて大量の銀歯や健康保険の歯内療法(歯の神経と根の処置), あるいは,健康保険によるあらゆる詰め物やブリッジなどが装着されている口腔内の患者さんは 危機感をお持ちになることを薦めておきましょう。 なぜなら,そういった治療のなされた歯は40代50代と年齢を経るにつれて一気に崩壊する傾向があるからです。 歯は,数十年単位でつきあうものです。 目先のコストの安さにつられて粗悪な治療結果を享受しないようにくれぐれもご注意なさるべきでしょう。
2006/4/1より健康保険の改正が実施されました。 どのような内容かと申し上げますと,保険医療の財源が逼迫しており,厚労省の一存でいくらかの削減がなされたものといえます。 そしてそれは制度を運用する歯科医師の意見は入らず,受給者である国民の意見を取り入れたものでもありません。 あくまで,保険財政の管理側の都合によるものです。
歯周病関連では大きな改正が2点あります。 歯肉剥離掻爬術という歯周疾患に対して頻繁に行われる小手術が約70%の減額となりました。 10数年間ほども固定された給付額だったのですが,効率化の余地があったとみなされたらしいです。 しかしながら現実的に改正後の給付で信頼性のある歯周外科を行うのはコストからみて事実上不可能ですから, 専門医による中等度以上の歯周炎に対する健康保険のオプションの一つはほぼ失われてしまったということになります。
そしてもう1点は歯周疾患に対するメンテナンスの事実上の廃止です。 今まで月1回から3ヶ月に1度までの頻度において歯周病の治療後に必要な最低限のメンテナンスの給付がありましたがこれが撤廃されました。 とはいえ,一応の代替手段は残されていて,それはすべての歯科疾患の管理に統合されました。 しかしながら,この新しい制度による歯科疾患の術後管理には実際の運用に当たって実施困難な給付制限が掛けられています。 どういうことかと申しますと,このオプションを採るにあたり,メンテナンス中は一切の保険歯科医療費の給付が絶たれるというものです。 歯科治療が終了した後何事も起こらないのは誰もが希望する状況ではありますが,現実には新たに歯が沁みたり,口内炎が出来たり,思わぬ事故で外傷を負ったりすることもあるでしょう。そしてそんなときこそ,健康保険が役に立たなければ困ることも多いと思います。 そんなわけで,この新しいシステムによる歯科疾患の統合管理のオプションはほとんどのケースで採用できない画餅であるといえます。 加えてこのオプションは初診時において決定しなければならず,後日,給付を受ける手続きをするということも不可能です。 さらに1年を目処として2年までという給付制限もあります。 メンテナンスの性格上,永続的に続けてこそ価値があるのものなのですが,それがまったく無視されているわけです。
本当に効果のあがるメンテナンスにつきましては患者さん個々の状況はまったく異なりますし, それが実際に評価可能になるのは,治療が終了した時点に他ありません。 そこで,当方ではそれぞれの状況に最もふさわしいメンテナンスを健康保険の給付の有無も含めまして お見積もりいたしますので,どうかお気軽にご相談願えればと思います。
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