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歯周病と歯並び(矯正医より)

■ 成人における矯正治療の必要性

 矯正治療は子供のうちに行うものとお考えの方が多いと思います。 しかし,現実には年齢を重ねるごとに歯並びが悪いことによって更なる被害が起こっていきます。 KNB Dental Office(小延歯科)では院長が歯周病の専門医であることから, 来院されるほとんどの患者さんが長年にわたる歯周病で悩みを抱えている方が多く, また今後の自分自身の口腔状態を憂慮されている方がお見えになります。 そのような方達は,幼少期から今日に至るまで様々な歯科医院で治療を受けていることが多く, その治療の際に特に現在の口腔状態の包括的な説明や今後の予防や管理の仕方について, 適切なアドバイスを受けることなくきているケースが残念ながら多いようです。

 ご自分の歯型を初めて見る方も多く, 抱えている問題点や改善すべき点などについて説明を受けることで, 自分の口の中がそのような状態にあったのかと初めて知る方がほとんどです。 自らの体に生じている問題点を知ることは何より大切なことであるし, 理解したうえでどのように改善していけばよいのかについても納得できるまで説明を受けることも大事なことであります。 もし提示された治療計画に対して時間的制約や経済事情などにより全て受けることが困難である場合においても, その先のリスクを理解したうえで治療を選択することと, 将来のリスクを知らぬまま治療を選択していくのとでは全く意味が違うと思います。

 以上のように成人の歯科治療には様々な問題が含まれており包括的な治療が求められるといえるでしょう。 その中でも特に重要なことは歯を支えている土台となっている歯周組織をよりよい状態に保つことと, 噛んだときにその力を多くの歯で分担できるようなバランスの良い噛み合わせにすることであります。 このような観点から見ても,成人の矯正治療は殆どの患者さんの口腔内に必要であることを日々痛感しております。

■ 歯並びが悪いとどうしていけないの?

 例えば,歯並びが悪いために歯ブラシを当てることが難しいので, しっかりと磨ききることは大変難しい状況にあります。 そこでこうした汚れが溜まりやすいところの歯が虫歯になります。 そして修復処置が行われ,その詰めたところも隙間から再び虫歯になり, さらに大きく削り修復し・・といった経過をたどることが多いのです。 そして,長年プラークが停滞することにより歯周病も併発していきます。 歯周病は静かにそしてゆっくりと確実に進行していきますので, ご本人が気づく頃にはかなり進行していることが多いのです。

 また,歯並びが悪いと噛んだ時にその力を何本かの歯だけで負担している状態になります。 本来は28本の歯が,噛んだ状態に応じてバランスよくその力を分散することで成り立っているわけですから, そのすべての力がたった数本の歯に加わるということになります。 当然負担の大きい歯は長年その状態を続けることで持ちこたえることが出来ず,グラグラとしてきます。 そして,クラウンやブリッジ,インプラントと呼ばれる治療を行うにしても, でこぼこした歯並びに合わせて作らなければならないわけですから, 当然精度も劣りますし, 噛み合わせのバランスが悪い状態で入れたものは長年に渡り使い続けられないことは容易に想像がつくと思います。

 こうした流れの中で歯並びの悪い人の共通点は, 奥歯を抜歯せざるを得なくなり失っていくケースが多いということです。 この原因は今まで述べてきたことが複合的に絡み合って生じています。 虫歯になりやすい環境にあること, 治療を何回か繰り返し修復物が大きくそして多くなっていくこと, プラークが停滞しやすく歯周病になるリスクが高いこと, かみ合わせのバランスが悪いことにより, 歯に大きな負担がかかっていること ・・・こうした幾つかの原因から奥歯を失っていくことに繋がります。

■ 奥歯を失うとどうなるの?

 歯を失うとその部分に成り代わるものを補う必要があります。 それはインプラント(人工歯根)であったりブリッジであったりします。 失われた歯の両隣または相対する歯が問題なく並んでいれば, その位置に合わせて条件の良い修復物を入れることが可能です。 しかし,歯並びの悪い人は一つ一つの歯の高さがまちまちだったり, 捻じれていたり傾いていたりします。 そのような悪条件の中でたった一本の歯を修復するだけでも本来作るべき理想的な状態に形作ったり, 精度の高いものを作ったり噛み合わせのバランスをより良いものに作る, といったことはまず不可能な作業といえます。 そしてブリッジであればその支えとなる両隣の歯を失うことにも繋がっていきます。 またプラークだけでなく噛み合わせの負担が大きいことにより歯周病が進行していきます。 歯周病が進行すると口腔内の崩壊は早まります。 つまり,歯並びの悪い人は治療を行う上で制約が多く, より精度の高い治療を行うことが困難であり, 処置歯が増えれば増えるほど更に歯を失うきっかけになってしまうのです。

■ 歯並びが悪かったらどうしたらいいの?

 虫歯を作らず, また歯周病にならないように幼少期からしっかりとブラッシングを行う習慣を身につけ予防していくことが重要です。 そして,永久歯を噛み合わせよく崩出させるよう幼少期から歯科医に相談し, 必要があれば矯正治療を行うことが望ましいことです。 しかし,幼少期からそのような予防に努めることを知らず, 既に成人となり口腔内の状態は修復物だらけで,しかも歯周病も併発しているという方が多いのが現実です。

 このような成人の矯正治療は様々な制約が多く, また歯周病が進行しているため通常の矯正治療以上に注意深く行う必要があります。 だからといって矯正治療が行えないというわけではなく, むしろその状態からでも歯並びや噛み合わせを少しでも良くするために矯正治療を行うということは, 将来的に多大なメリットとなることが多いのです。

 歯科治療を受けながらも徐々に崩壊が進行していったご自身の現在の状況を嘆くばかりではなく, 今後信頼できる歯科医師を見つけ抜本的に治療を行うことで, これ以上悪くしないようにしていくという発想に切り替えることです。 そのためには歯科医師と患者間の信頼関係と治療後もメインテナンス(定期検査)に通う ということが何より大切なことであるといえるでしょう。

■ 矯正治療の目的

○ 歯科治療がよりよい条件で行える

 歯並びが悪く見た目が気になるということで矯正をしたいとお考えになる方がほとんどだと思いますが, 将来自分の歯で噛み続けられるために, また残念ながら修復物が既に入っている治療済みの歯や今後修復していく歯が生じた場合においても, 矯正治療が必要になってくるケースがほとんどであるといえます。 部分的にでも矯正治療は行えますし, 修復すべき歯の周囲の歯並びを整えるだけでもその修復物がよりよい条件の下で作ることができ, よりかみ合わせの良い,また精度の高い修復物を作ることが可能になります。

○ 口腔衛生が行いやすい環境を作ることができる

 歯並びがでこぼこと重なり合ったり傾いたりしていたら, 歯ブラシで完全に歯垢を取り除くことは不可能です。 そこから歯周病が進行していくというケースも多く見られます。 プラークコントロールという言葉もすっかり定着してきたところですが, せっかく毎日磨いていても歯ブラシの毛先がうまく届かないところがあれば磨いているという効果が発揮されず, ”磨いたつもり”で終わってしまいます。 プラークコントロールこそご自身の歯を失うことなく使い続けるために最も大切なことといえます。 いくら精度の高い修復物を費用と時間をかけて入れたとしても, その歯を手入れせず過ごしていれば瞬く間に再治療を行うような状況になってゆくことでしょう。 このような点からもプラークコントロールの行いやすい環境を整えるということはとても重要なことなのです。 矯正治療を行えば重なり合った歯や傾いた歯を治すことができます。 しっかりと歯垢を落としていれば,それ以上虫歯や歯周病になることを防ぐことができ, 修復物が増えることもありません。 将来にわたり患者さんが得るメリットは計り知れず大きいものといえるでしょう。

○ 顎の骨の安定した位置に歯を並べることができる

 なぜ歯並びが悪くなるかと疑問に思う方もいらっしゃると思いますが, その原因を理解しやすく例えるなら, 顎の骨をベンチと考えれば歯はそこに腰掛ける人ということになります。 もし7人がけのベンチに太った人ばかりが7人腰掛けたとしたらどうなるでしょうか? ベンチからはみ出てしまうか, または無理にそこに全員が座ろうとすればお隣の人同士が重なり合って座るしか方法がありません。 その状態がでこぼこした歯並びの主な原因です。

 顎の骨と歯の大きさのバランスが合っていないことにより歯並びは悪くなります。 現代人に多く見られるのは, 顎の発育が小さい割には歯の大きさは平均的かまたはやや大きめといったことが原因で 歯並びが悪くなっているケースが多いようです。 ということは,顎の骨の真ん中に歯が並んでいるわけではなく, 顎の骨の中心から外れてしまったところに歯が並んでいるというケースが多いということです。

 分かりやすく言えば,八重歯といわれる歯は犬歯が上のほうからドラキュラのようにはえている状態ですが, この犬歯を想像してみても分かるように, 顎の骨から外側にはみ出たところから崩出しています。 つまり犬歯の歯根は支えられている顎の骨の量がとても少ないということがお分かりいただけると思います。 このことにより歯周病が進行しやすいリスクが高くなります。 またこのような犬歯は上下でかみ合うことがなく, ただそこに生えているだけといった状態ですので噛むという機能に全く参加していません。

 このように歯並びの悪い人は噛んだとき全ての歯が機能しておらず, 噛むときの大きな力を全ての歯で分散できず, 何本かのかみ合う歯だけがその力を受け持っているということになります。 その負担をおっている数本の歯がどれだけダメージを受けるかということは皆さんも想像できると思います。 もし矯正治療を行い歯を適切な位置に並べることができれば, 噛んだときの力を顎の骨の中心に真っ直ぐ受け止めることができ, またその力を多くの歯で分担し合うことができますので, 毎日多くの過重をかける歯の負担を軽くし長い人生を自分の歯で噛むことができるということにもつながっていきます。

■ 最後に

 皆さんは見た目を気にされて矯正をお考えになる方が多いと思いますが, それだけではなく, むしろ失われた機能を正しい状態に治していくということがとても大切なことといえます。 その結果,見た目にも美しい口元を手に入れることができるという考え方です。 皆さんがご自分の歯並びを鏡で見ても一体どこに問題があるのか判断できないと思います。 是非,専門医に相談してどんな問題があるのか,またその改善方法はどのようなものなのかについてまず聞いてみることです。 その際に歯科医師との信頼関係をよく築いた上で治療を始めることも大切です。 よく理解していない状態で治療を始めることは百害あって一利なしというものです。 理解できないなら納得できるまで説明を求めれば良いし, その求めに応じないような歯科医師なら治療は受けないことです。 是非気軽に相談してみてください。 より良き人生を送るためにもまずは一歩踏み出してみることです。

歯科医師:鈴木良子
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