科学的根拠と治療

■ 治療方法の説明を聞くにあたって

 ”EBM”すなわちEvidence Based Medicine の頭文字をとったもので日本語訳としては『科学的論拠に基づいた治療』とされています。現在,医学・歯科医学の急速な発展に伴い,歯科の治療のみではなく,様々な病気に対して複数の異なった治療法が発表されていることは珍くありません。この様な状況になると,ある病気に対する治療方法として,はたしてどの方法が最も効率的で有効であるのか?・・・という問題について客観的に考えなければいけないのは当然のことです。

しかしながら,従来の臨床医学の研究では残念なことに,研究中の新しい治療方法の有効性について,その他の治療方法と,あらゆる手段を講じて,それらの治療効果について比較検討することは稀であったのです。せいぜい,何も治療しなかった場合に比較して,どの程度の改善が得られたのか? という情報くらいしか調べられていなかったことがほとんどでありました。これは,どう言う事かといえば,同様な効果がある他の治療方法と比較して,これから処方しようとする治療方法がどれだけ有利であるか? ・・・という客観的な情報が乏しいか,あるいはまるで無視されているということです。例えば,民間療法と呼ばれているものの多くはこの手順を踏んでいないため,その効果の確からしさを客観的に判定することが困難であると言えます。そこで新しい治療法を導入されるにあたり,以下のような研究がなされているかどうかが,一つの目安となっています。

  1. 基礎医学の充分な裏付けがあるか?
  2. 動物によるシミュレーションがきちんとなされているか?
  3. 実験の判断基準としてのコントロールが適切に設定されているか?
  4. 他の同様の効果を持つ治療法と適切に比較されているか?
  5. 単独の症例報告だけでなく,複数症例が報告されているか?
  6. 治療成績に実績のある複数の施設において検討がなされているか?
  7. 成功率と失敗例について適切な考察が得られているかどうか?
  8. 世界的に見て信頼のおける研究機関による報告であるのか?
  9. 副作用あるいはデメリットについて盲検されているか?
  10. 時間軸に対して前向き,後ろ向き双方について検討されているか?

こういった考え方は,現在,医療の世界を席巻しつつあります。一般的に,新しい治療法にかかる費用はおおむね高額になる事も多いので,経済的に有利な治療を選択することも重要な要素です。患者さん一人一人にとっては一度しか受けることの出来ない治療を複数の選択肢から選ばなければいけませんので,私たちは上記の条件に当てはまる妥当性のある治療方法を個々の患者さんについての診断より選択します。その論拠と共に治療計画を立案し説明させていただきます。そして,最終的に患者さんのご理解を得た上で選択肢を決定していくことになります。

■ 新しい治療方法を選択する時には・・・

『最新の治療法は本当に素晴らしい結果をもたらすのでしょうか?』・・・ある特定の先生が独自の治療法を展開している・・・、ある医院だけが『特別な治療法』をすばらしいと喧伝する。いずれも免許をもったプロによる『民間療法』だといえます。それによって良い結果を得られた患者さんも多分、若干は存在するのでしょう・・・。では、失敗や弊害はどうでしょう?『最新の治療法』による数十年に渡る長期的な成績は?これらを疑問に思った時にEBMは役に立つと思います。医師による裁量権は合法ですが、その境界は不明瞭です。『標準治療』と呼ばれるものも本当に標準なのか?単に時代遅れの常識なのか?なかなか、判断が難しいところです。しかし、主治医を選ぶ際は患者さんが初診を受けた医師にインタビューしてどの様な考えや哲学を持っているのかを感じ取ることは、医師と患者の関係もつまるところ人間関係の一つの形であるとすれば、それは大切な判断基準だと思います。そして、忘れてはならないことは数十年前の歯科治療は全くダメだったのでしょうか?・・・いえ、決してそのようなことはありません。実力のある視界に管理された口腔内は数十年後の今も高い確率で良い状況を維持していることもEBMは証明しているのです。