歯周病の治し方

■ 歯周病のリスクとは?

 歯周病にかかってしまうリスクは,誰にでもあります。これは厳しい現実なのです。現在の研究で病気に対する感受性(歯周病の罹り安さ)は,それぞれの人において差があるらしいことが判明しつつあります。しかし,その原因がどこにあるのか今まで判らなかったのですが,それが,どうやら遺伝的な要因によるところが大きいと言うことが徐々に明らかになってきています。しかし, 歯周病の罹り易さを 決定するいくつかの遺伝子がようやく見つかりはじめてはおりますが,各個人レベルで歯を歯周病によって失う可能性を客観的に検査する方法は,未だに確立されているとはいえないのが現状です。

 未来を予測することは大変難しいので,歯周病に対して現在非常に効果的な治療とは以下のようなものとなります。診査の結果,健康であると診断された人については予防が絶対必要です。一方,歯周病の問題および他の歯科的な問題があると診断された方については,根本的な治療の後,予防を徹底することになります。予防の段階をメンテナンスと呼んでいます。これは,どんな方にも必須のプログラムです。

 歯周病が感染症であるという事実は,私たちの口腔内に巣くっている微生物とどの様に付き合うか?・・・という観点に立って考える必要があります。これはどう言う事かといいますと,口を始め人体には,いたるところに何100種類ものバイ菌が棲息しています。これらの多くは健康時には何の悪影響もおよぼしませんし,むしろそれなりの役割さえ持って私たちと共存いると考えられています。しかし,宿主である私たちの肉体が弱ったときには,急激に増殖して悪さをしたりすることもあります。事実,感染症としての歯周病はこの様な一面を持っています。むろん歯周病原性微生物として,有害な種類である菌も見つかっていますが,どんな患者さんでも口の中からそういった微生物を完璧に駆逐してしまうことは不可能ですし,自然の摂理に反しているとも言えます。

 それではどの様な治療をするのか?と言うことになりますが,歯周病そのものに対する治療というのは,お口の中のバイ菌の数を病気の起こらないレベル(数)にまで減らすことを徹底する。これが全ての基本になります。そのためにどんなことが必要なのか?まず,歯周病に対して有効なブラッシングを専門家に指導・管理してもらうことです。患者さんの我流ではダメなのです。そして,みなさんは,それを努力してマスターし,励行しましょう。これによりデンタル プラーク(歯垢)の量を歯周病を引き起こさないレベルにいつも保つことができます。

 歯周病専門医の仕事は歯周病により破壊されてしまった歯茎の組織を病気に対して,充分抵抗できるような環境に 再建してあげることです。この処方をすることで,ほとんどの患者さんを歯周病から解放することが可能です。ほとんどの・・・と申しますのは,コンマ数パーセントですが,現在の治療方法を徹底したとしてもあまり効果を現さずに徐々に歯が失われてゆく,難治性の歯周病という型の病気が存在するからです。この型の歯周病は特定の歯周病原性微生物の検査や歯周病感受性テストおよび臨床経過観察により見つかります。しかし,こういった難治性の歯周病は本当にごく稀にな頻度(コンマ数パーセント以下)でしかありません。

■ 歯周病はバイオフィルム感染症

 バイオフィルムという言葉をご存知でしょうか?身近にバイオフィルムが観察されるところに台所の排水口があります。 台所や風呂場の排水溝の掃除をなさった経験のあるか方は多いでしょう。そこは,ヌルヌルとしたカビや雑菌が ビッシリと生えており悪臭を発していたはずです。そして,タワシやブラシを使って相当一生懸命に掃除しなければ,きれいに取り除くことは困難であったはずですし,塩素系の洗剤など劇薬に準じた薬剤を用いないと,
すっきりきれいにすることが出来なかったはずです。いったい何の話か?と思われたことだと思いますが,
歯を取り巻くお口の環境というのは,この流しの話と非常に近似したものなのです。両者の共通点をあげてみましょう。

  • 体温に近い一定の温度に保たれている
  • 水が絶えず供給され,湿潤してはいるが空気とも恒久的に接触している
  • 硬いものの表面(管壁や排水溝,歯や歯根)にヌルヌルした状況を作りそこにたくさんのカビや細菌が集まり棲息する。

 驚くほど似ていると思いませんか?ヌルヌルした付着物というのは歯の場合はプラーク(歯垢)ということに他なりません。お口に当てはめて考えてみれば,ブラッシングは隅々まで丹念にしない限り,プラークを取り除くことは不可能ですし, 市販されている歯磨きペーストや洗口剤はいずれも塩素系の洗剤の様な除去効果を持っているとは考えにくいです。 流しのヌルヌルや歯の表面に作られるプラークは,現在の科学的知識で検証してみれば,それは『バイオフィルム』という現象で説明されています。

 ヌルヌルとしているのはバリアとして多糖類のマトリックスを作り出しています。そして,それが, バイ菌同士を離ればなれになることなく強固な共生体として機能しているのです。一旦バイオフィルムを形成したバイ菌達は, 単独で棲息していたときと比べて驚くべき性能を発揮するようになります。

  • 水流では流し去る事が出来ない
  • 抗菌剤や消毒剤がほとんど効かない
  • 自然に消滅する事がほとんど無い
  • 単独では生きていけないような低栄養の環境でも十分に棲息可能

■ バイオフィルム感染症の歯周病治療法とは?

 例えてみれば船底に沢山付着した貝や海草,あるいは水草の『ジュンサイ』やカエルの卵のイメージでしょうか?ヌルヌルゼリー状の多糖類が内部の バイ菌を強力に保護して,そのなかでは,大量のバイ菌の共同社会が営まれているようなものです。この様な 生命共同体が歯質の表面に凝集吸着し,組織を破壊する代謝産物を長期間にわたり放出を続けるのです。抗生物質(抗菌剤)抗真菌剤(アムホテリシンB)、レーザー治療、次亜塩素酸ナトリウムを含有した水(ペリオパーフェクトなど)、光とメチレンブルーによる殺菌、消毒剤によるポケットの洗浄・・・いずれも対症療法に過ぎません。なぜならバイオフィルムに対する根源的な解決が何もなされていないからです。ごく短期的(数日〜数カ月)には炎症の緩解は認められるでしょう、しかしながら、歯の治療の根本である長期的な維持には無力でいたずらに医療コストを押し上げるだけで虚しいだけです。そしてこうしたコマーシャリズムにのった治療法は実際のところ世界中で検証されその効果が普遍的に得られることが実証されているわけでもないのです。

 歯周病もムシ歯もこのバイオフィルムの存在によって引き起こされているという事実に異論を述べる研究者はいません。 口の中の,歯の表面のバイオフィルムとはデンタルプラーク・歯垢そのものなのです。 つまり,このバイオフィルムの定着を抑制すれば,歯周病とムシ歯から解放されると言う事です。 その結果として歯を失わない人生を得る事が出来るのです。その為の方法がプラークコントロールとPMTCです。 適切な管理をするという事は知らず知らずに発生するバイオフィルムを見張り,先手先手を打ってそれを確実(物理的に)に取り除く事なのです。 そしてそれを確実な結果を導くためには厳格で技術力の高い治療が必要になります。