歯周病を理解する

■ 健康な状態vs 歯周病

  歯周病にかかるとかつて健康であった時と比べてどのような状態になるのでしょうか?

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歯周病(成人性歯周炎)

このレントゲン写真の患者さんは,30代前半の男性ですが,歯を支えている骨がたくさん吸収しているように見えます。この患者さんは,歯茎の違和感が 気になるという至極軽い症状を訴えて来院されました。ご本人の話によれば,歯肉の内側の骨が こんなに失われているとは夢にも思わなかったそうです。

全ての患者さんが,永久歯が生えた時点で歯周病であったと言うことは絶対にありません。ごくごく特殊な例で,小学生くらいの歯の交換時期に,すでに歯周病が発症しているというのはありますが,ほとんどの方は無縁なはずです。発症してしまえば,一定以上の時間の経過とともに歯周組織が破壊されていきます。ほとんどの場合,何の自覚症状もなく進行するのです。

下に示した健康な状況のレントゲンと比較すれば,一目で,歯を支えている骨が減少しているのがお解りいただけると思います。この歯の根を取り巻いている骨の部分を『付着』と呼んでいます。歯周病とはこの付着が歯冠の付け根の部分から,歯の根の先端に向かって,長い期間(10年単位)に徐々に静かに失われていく病気なのです。そして上の患者さんの例のように, 若くして発症してしまった場合には,既に中年期で歯を失ってしまう寸前まで気づかない内に随分速く病気が進行してしまうケースもあるのです。

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 健康な歯茎の人(ムシ歯の治療済)

歯周病を理解する上でとても大切な事は,それが『非可逆性』の疾患であるという点です。どう言う事かと申し上げれば, 歯を支える組織(セメント質,骨,歯根膜線維)の構造が壊され,健康であった時点とは異なった状況に陥ってしまい, 元通りの構造を取り戻す事が非常に困難であると言う事です。このことを詳しく知ってしまえば,大切に扱わなければ生涯を通じて歯を維持する事が難しいことか理解出来ると思います。

■ 歯周病は歯を失う原因の大半です

 みなさんが歯科治療を受診する動機は様々なものがあると思いますが, 基本的には歯を失うことなく人生を豊かに暮らしたいと願うと言うことに異論は無いでしょう。それでは,なぜ歯を失ってしまうのでしょうか?

下のグラフをご覧になっていただければわかりますが,ほぼ原因の半分が歯周病により占められています。『その他』というのは,事故や外傷などによるものです。虫歯で歯を失うのは比較的若年者が多いのですが,歯周病で歯を失うのは中年期以降に急速に増加していきます。さらに, その失い方も一度に数本という悲しむべきものです。その様にして, やがて取り外し式の『入歯』の装着を余儀なくさせられるのです。

むし歯は歯を失う原因として歯周病と同じくらい多いのですが、このデータは注意して見る必要があります。一般的に、きれいな天然歯に発生したはじめてのむし歯で歯を失うことはほぼありえません。どういうむし歯で歯を失うのかといえば、小さな虫歯を健康保険で詰め物をして治すのが普通ですが、歳月が経過すると2次う触というむし歯で、詰め物がより大きなサイズの詰め物に再治療され、さらにまた2次う触になって歯の神経(歯髄)を失い被せ物の治療が施され、それがまた2次う触になった暁には抜歯の転機をたどります。日本の健康保険による虫歯治療の実態でもあります。歯周病は、実態としてほとんどの健康保険の歯科医療機関で良質に治されているとはいえず、治せるべき歯科医の絶対数が少ないために、残念な結果に終わっている例があとを絶ちません・・・

 

あなた自身が歯周病に注意するために重要な特徴および病気の兆候を以下に述べます。

  • 自覚症状がほとんどないか,軽微で不明瞭なこと
  • ほとんどの場合10年単位でゆっくりと病気が進行する
  • ある特別な状況の下,急速に進行することがある
  • 一度に多数の抜歯を余儀なくされるということが多い

歯周病が成人が歯を失う理由の約50%を占めていることがご理解いただけると思います。

■ 歯周病は多くの本数の歯をダメにします

 

親不知も含めて永久歯が生え揃う20歳から80歳までの日本人の平均的な生存歯数です。親不知を含まない永久歯の 歯数は28歯ですから60歳で約10本つまり奥歯のほとんどを失うことになるのです。いわゆる奥歯というのは大臼歯と言って親不知を除くと8本しかありません。親不知は現代人においては(つまり私たちと言うことです),ほとんど正常に機能しない状態でしか生えませんから,大部分は健康な内に抜歯するのがよいと言うことになります。これを防ぐには,歯の喪失原因の大部分を占める歯周病を何とかするしか方法はないでしょう。

要するに歯周病により歯のない人生を送ることを余儀なくされることを避けるには,方法は大まかに分けて2種類であるといえます。あまり多数の歯を失わなくてすむ若年の内に(20〜30歳台),40代では少し遅い可能性もありますが、とにかく1歳でも若いうちに、きちんと歯周病の検査と治療を受けておくことが重要であることが判ります。やむを得ず中年期を過ぎて,いよいよ危ないという自覚があるならば,早急に徹底した歯周病の治療と喪失した歯の再建治療を受ける必要があるでしょう。

もちろん理想な選択は前者であることは言うまでもありません。しかし,後者の選択の方が治療の効果を実感するという点のみにおいては,効果的ですが,治療に費やす時間と費用がかさみます。

■ 歯周病の3つのS

 歯周病を理解するのに最も重要なポイントは,この病気はバイオフィルム感染症であると言うことです。感染が成立するのには,必要な条件として微生物の存在,感染可能な宿主(歯周病の場合は口腔であり,歯根および歯冠の表面に微生物は付着します)の存在,および感染する経路の存在(人から人へと感染すると言われていますが詳細は未だに不明です)が必要条件です。上記の原理を理解すれば,なぜ歯のない人は歯周病とは無縁なのか,その理由が解ると思います。

  • Social disease – 成人の90%以上が罹患
  • Silent disease – 静かに気がつかないうちに進行する
  • Self-controllable disease – 治療すれば再発予防は可能

さらに感染した細菌は,宿主である私たちの細胞に作用して,炎症をより悪い状態にしたり,歯を支える組織を分解する因子を産生したり,その結果として自身の歯を支えている骨を吸収します。

歯周病の本質は感染症ですが,経口薬(抗菌剤など)の内服あるいは,外用薬の適用などでは,絶対に治癒しないということが特徴です。その理由について様々な研究がなされていますが,現時点では,バイオフィルムによる微生物自身の防御作用が強力であるためと考えられています。そのために感染源の除去としては機械的な操作(ブラッシング,歯石の除去,手術による汚染された組織の除去)が非常に有効で,ほとんどの種類の歯周病の治療法の根幹をなしています。