長持ちする歯科治療

■ 精度は歯科治療の生命線

 お口の中の環境というのは,台所の流しと同様な環境なのです。殊に歯科医師や歯科衛生士による管理を受けていない方の歯の隅々というのは,何年間も全く清掃されていない場所がいたるところ必ずあります。そして歯には, 人間が生きている期間ずっと驚くほどの力も加わるのです。つまり歯の修復物は常に一時たりとも休むこと無くこのような過酷な環境にさらされているのです。歯と口の中の環境というものは,それを終生,機嫌良く使おうというのなら,おそらく皆さんが考えている以上に想像を絶するほどに厳しいものなのです。

 皆さんの中にも一度治療をした歯を再度治療した経験がある方も少なくないかと思います。そしてその際には小さな詰め物が 大きな冠になったり,歯の神経の除去治療を余儀なくされたりしたこともあるかたも多いかも知れません。 お気付きになられていると思いますが,歯の治療は繰り返される度にあなたの歯は削り取られていくのです。これは人生の大きな損失だと思いませんか?。統計によると5回治療が繰り返された歯の80%を上回る歯が抜歯の対象になるといいます。その後は取り外し式の大きな入れ歯のお世話になることになります。

 台所の流しの排水口に腕時計を放り込んだとしましょう。防滴設計のなされていない製品ならすぐに壊れてしまうでしょう。
しかし,近頃の腕時計は防水を謳ったものも多いので,そういった製品ならすぐには壊れることも無く動き続けるでしょう。
そんな製品であっても年単位ではどうでしょうか?。数年間,排水口に放り込んでおいても壊れない時計は,おそらく相当高級なつくりの完全防水設計ものだけだと推察できます。そのような環境で壊れずに生き残った時計はどのような点優れていたのでしょうか?。まず,精度が高く,水分の侵入に対して十分な密閉性を持っていたこと。次に激しい温度変化に対してもリーク(漏洩)が起きないように部品同士の熱収縮・膨張の補償が施されていた事。食品由来の酸やアルカリ,脂質および洗剤の界面活性剤などに腐食されない表面処理, 樹脂製のパッキングが用いられ,それぞれが高い精度で組み立てられていたからに相違ありません。そして数年も放置しておけばカビやバイ菌がビッシリと付着していたはずですから,それらに対しても抵抗性があったということです。

 歯の治療と何の関係が?と思われたかもしれませんが,この高級時計サバイバルのお話は,ほぼそのまま皆さんの歯に装着されているかもしれないクラウン(金属やセラミックの冠)やインレー(金属やセラミックの詰め物)等に当てはめて考えることが出来ます。 たくさんのいわゆる銀歯が,あなたの口に装着されているかも知れません。そのほとんどは痛みもなく,外れる兆候がないかも知れませんが, その接着界面は唾液と歯垢による酸と温度差の変化の繰り返しにより破壊されて2次齲蝕を誘発している事が半数以上の頻度で散見されます。

 この悲劇を防ぐには,精度を上げるしかありません。具体的には,顕微鏡の観察下で歯を削り,顕微鏡の観察下で歯科技工をするほかありません。 しかし,いずれも健康保険制度ではサポートされていないのが現状です。こういった精度を確保した上で,継ぎ目のシール能力が優れている貴金属などを使用してクラウンやインレーを製作するのが長持ちする歯の治療の基本となります。そして,高精度な治療品質の歯は何らかのトラブルがあったとしてもご自身の歯は無事なことが多いのです。一般的な銀歯による修復は老年期を迎えるまでに非常に大きな問題を引き起こし,8020の実現を困難にしています。

 以上の事は歯の詰め物やクラウンあるいはブリッジを例にとってお話ししましたが,歯周病の手術も歯髄(歯の神経)の処置も 現在では,品質を追求する場合マイクロスコープ手術用顕微鏡を使った治療が要求されます。これらは,治療をしたあなたの歯が長い間にわたって健康に機能するために役立つのです。しかし,この技術を使うことの出来る歯科医師はごく少数しかおりませんので良く探すことが肝心でしょう。